ISBN:4840229430 文庫 中村 恵里加 メディアワークス 2005/02 ¥704
『ダブルブリッド』の中村恵里加、再始動!
「運命。
 私は彼女との出会いをそう表現する」
 生者の魂を喰らい、死者の魂を引き寄せるハンニバル。主に忠義を尽くし主と共に死ぬ使い魔の常道から外れ、主に不義を働き主を冥府へと誘いながらも己のみは生き長らえるという死を招く猫。
 そんな使い魔の次なる主――江藤比呂緒は弱冠十二歳で、たぐいまれな霊的な素質を持っているが、とんでもない“大馬鹿者”で……。
頭の弱い少女が主人公と言うなかなかイタい設定から始まる中村恵理加の新シリーズはダブルブリッドでもついぞ見せる静かな狂気と言うか、そこはかとない不安感を残しつつぐいっと読者を引き込む上々の滑り出しとなったと言えるでしょうか。
主人公比呂緒は頭脳的な発育の遅れを持つ少女として傍目にも痛々しいく描かれているのですが、決してそれだけでは語れない複雑な側面を持つキャラクターとしてもしっかりと書き込まれており、様々な伏線も相まって次第に彼女の言葉から、動きから目を離せなくなります。
父母、妹、そして友の見せる無垢で純粋ではあるが社会的にあまりにも受け入れられない存在たる比呂緒へのそれぞれの感情。
そして三嶋蒼儀とハンニバルがそれぞれの都合と思惑によって比呂緒を幽霊退治屋ソウルアンダーテイカーへと仕立て上げていく過程で比呂緒の持つ無垢な純粋さへ逆に魅かれて行く様。
そして比呂緒自身、運命にただ流されているようで、そこに確固とした意志を仄めかすその強さと危うさ。
そんなものが渾然一体となってなんと評して良いのか、とにかく魅力的なシリーズになる予兆を感じさせてくれています。

昨今のイタいだけの薄っぺらい作品群へのアンチテーゼとして、このシリーズが金字塔となってくれる事を期待しています。

ちなみにこのソウル・アンダーテイカーの書評としては日刊リウイチ殿2/12の日記が素晴らしいので、興味があれば是非こちらを読んでみる事をお勧めします。
http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/nikko.html
鴉

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